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宴会が支持される理由

記録にすでにうたわれているように、生野菜は他の薬草とともに″薬″として食べられていたのだ。 もっともこうした記録も、要するに都会、ことにアテネやスパルタの人たちについてのもので、それまでにも農民は野菜を生で食べていたのだろう。
これらの記録が私たちに告げているのは、ギリシアの哲学者たち古代の都市文明の中で、都会人や貴族あるいは金持ちのぜいたくに反抗して、生ものを食いはじめたということだ、という説もある。 エピクロスという哲学者はアテネの自分の家に″田舎″を作ったというので知られている。
要するに家庭菜園のことで、新鮮な野菜を自分で作って、採ってすぐ生で楽しむことが広がっていったのだろう。 エジプトの物質文明を受けついで独自の哲学を発展させたギリシア人を、あれほど思索的にしたのは生野菜だったかも知れない。
「クレソンを食べて知恵を得よ」の格言あるということだ。 こうしてはじまった野菜生食の歴史は、その後ヨーロッパ円で広く長く続いた。
千数百年後、14世紀のイギリスではいつのまにか、サラダが王様のたべものに昇格(?)していた。 14世紀の終りにはリチャド2世の料理長サラダの作り方を記している。
「パセリ、セジ、ニラまたはニンニク、タマネギ、洋ネギ、ルリヂサ、ハッカ、ウイキョウ、クレソソ、ヘンルダ、スベリヒユをよく洗う。 あなたの手でこまかくちぎって、生の油をよく混ぜ、酢と塩をかけ、食卓に出す」 生野菜を手でちぎる点とか、酢と油と塩で味をととのえる点など、こんにちのサラダによく似ている材料の方はほとんど薬草や香草で、生野菜を薬として食べた古代の感覚まだ残っている。

というより、古代の考え方に沿って完成した「薬用料理」と言ってもいいようである。 菊、桜、つつジ、ダリアなど、花を食べるのはこんにちでは私たち日本人の特技のようだ。
さしみや塩焼魚の皿にさりげなく黄菊の花を添えたりもする。 このアイデア数百年前、遠くはなれたヨーロッパでも行なわれていたのである。
 サラダにくだもの加えられはじめたのは16世紀(実際に普及したのは18世紀末)だという。 レモン、オリーブ、オレンジなどがサラダの味をますます引き立てたことだろう。
また、野菜にはないいろどりを添えたことでもあろう。 このころにはイギリスでもいろいろな野菜入手しやすくなり、また、新しい野菜や栽培法が輸入されて、サラダの材料はますますバラエティに富んでくる。
イギリスの植物学者たちサラダについて述べるようになるのも、このころのことである。 また園芸家もサラダについて書いた。
そのころ、サラダ用植物としてあげられているのは3十種類を越え、この中には、現在私たちが食べているサラダの原型が出揃っている。17世紀後半にはいると、チキン、エビ、魚などをサラダに入れることが行なわれるようになった。
このころ、ジョソイブリソが現われて、サラダに関する名著『アケタリア』を刊行した。 ジョソイブリソはイギリスの日記作家だ。若いころにパリに行っていたので、フランス風のサラダについて見識を持つようになったのだろうといわれる。

『アケタリア』というのは「野菜を酢で料理する」という意味のラテン語だということで、つまりはこんにちのサラダを表わす言葉だといえよう。 イブリソは、この本の中ではじめて、「サラダとは生野菜の配合料理」と定義した。
「完全なサラダ」とは、「苦みと辛味あり、穏和であって無味であり、たちどころにぴりっとする、生き生きした食べものであるように、正しい配合をしたものでなければならない」、「その配合においてはどの植物もそれ自身の持ちまえを守り、与えられた役割を果たさねばならない」と述べ、ついに、「どの植物もあたかも楽譜における音符のようであるべきで、調子の悪い、耳ざわりな音を出してはならない。 ときにはある種の不協和音を認めるとしても、 より快活な、よりおだやかな音色ですべての不協和音を調和させ、快いコソポジシヨソに溶け合わせるような、きわだった調子のものでなくてはならない」と、独得の「サラダ美学」に説きおよぶ。
この音楽的比喩をまじえた意見をきいていると、サラダにヨーロッパ人が感じているものは「芸術」そのものという気にしてくる。 「サラダ」という、日本人の語感にとってもさわやかで、美しい生野菜にふさわしい言葉は、ポルトガル語で、現在、英語やフランス語ではサラードになっている。
ラテン語の「サラレ」が語源で、塩で味つけするという意味である。 サラト、サレトなどを経て、14世紀ごろサラードに落ちついたらしい。
はじめは「サラダ用の野菜や草」という意味に使われた。 シェクスピアの戯曲「終りよければすべてよし」には、「いい婦人でしたよ。
千種類のサラダを摘んでも、ああいうよい味は、なかなかみつかりませんよ」というくだりある。 その後、「混ぜもの」の意味にも使われた。
もっともサラダの語源にはもう1つ説あって、サラダをあえる皿半球形のサラトというヘルメ″トに似ているからフランスでサラードと呼ばれるようになった、ともいう。  日本人は昔から積極的に生野菜を食べようとはしなかったようだ。
春に草を摘み、人に贈ったり賞味する「若菜摘み」の行事はあった、煮たり、粥に入れたりしていた。 日本の在来の食べものでサラダにあたるのは「あえもの」だろうか。

ワケギ、チサ、ダイコン、ゴボウなどいろいろなものが酢、酢味噌、ゴマ味噌あえなどのあえものとして親しまれてきた。 これらも、野菜をおいしく食べようとする努力の結果で、西洋のように薬効をやたらに表に出すことはしていない。
そればかりでなく、サラダそのものについても、食物史家はわりに冷淡である。 もし、サラダがポルトガル語として日本にはいったのだとすると、サラダの伝来は、安土桃山時代ということになるかも知れないO田信長南蛮好きの大将で、パンや肉を好んで食べた、というような記録はあっても、野菜については触れられていない。
日本在来の野菜には、サラダに適したクセのあるものはなかったせいかも知れない。 明治の世開けて、上流から次第に西洋料理を食べるようになった、肉食の習慣や洋風の食べ方の渡来については多くのペジがさかれていても、サラダないし生野菜食についての記載はおどろくほど少ない。
庶民になじんだのは、ずっとあとになってからだ、明治316年の『食道楽』という当時のベストセラの料理恋愛小説には、「野菜は脳病に功あり、キュウリは胃病に功あり、サラダにするチサは不眠症と神経過敏に功があり」といっているところをみると、サラダはめずらしい野菜の食べ方として、料理好きの人にはよく知られていたもののように思われる。 同じ『食道楽』の巻末には西洋食品価格表というのがあり、野菜としては、西洋ウド、シャンピュオン、ジンジャ、トマト、アテチョウ、西洋松露、カブ、キャベジなどと当時の西洋野菜類がリストされている、すべてびんあるいは耀詰で、とてもこんにちのような生野菜のサラダ作れたとは思えない。
実際には、ほとんど江戸時代か明治年間には渡来していた、普及していなかった。 「サラダにするチサ」はレタスのことだろうから、レタスは早くから、かなり栽培されていたのだろう。
こうした中で特異なのはキャベツである。

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